夜をすり抜けて
「んじゃ、このスプレーやるわ」
樹はわたしの学生鞄に、そのスプレー式の洗剤を突っ込んでくる。
「いいよ、洗剤なら家にも何かあるし」
「いやいやこれはね、すっげー良く落ちるから」
半端ねーぞ、って笑ってる。
「なくなると樹が困るじゃん」
「あはは、会社の備品だからまたもらうし、いいさ」
樹はちょっといたずらっ子みたいだ。
樹の携帯を借りて、満開の桜の花を写メしてお母さんに送った。
あの偽“眼鏡男子”以来、お母さんとは何度かメールのやり取りをしていて
今どこにいるかの短い報告なんだけど、その都度お母さんからは即刻返信が届いた。