夜をすり抜けて
倉庫内にある事務所に行くと、わたしはそっと扉を開けて中に向かって声をかけた。
「あの、すみません、これにハンコを欲しいんですけど…」
小さな事務所にはおばさんが一人だけいて
「あらっ、相原君の彼女ぉ?」
なーんてクスクス笑いながら応対してくれた。
運転手は『相原君』というらしい。
「あ、いえ、妹です」
わたしがそう答えると、おばさんは「またまたー」なんて冷やかしてきた。
はは…これは否定する方が面倒くさい。
「あんたの彼氏、若いのにえらいよねぇ」
おばさんはそんなことを言いながら、小さなお饅頭とお茶を出してくれた。
「うちみたいなとこだと狭いしリフトも使えないから、荷物の搬入はどうしても手積みになるんだけど、相原君いつも嫌な顔一つせずに手伝ってくれるからね」
「そう…ですか」