夜をすり抜けて
「お前は?」
「え?」
「名前」
「あ、上野真琴、14歳。もうすぐ中三になる」
「真琴か、俺はタツキでいいよ。相原樹」
タツキ…って読むんだ。
「えっと…タ、タツキは、何歳?」
この際そう呼ぶ。
おじさんでもお父さんでも先生でもない大人の男の、正しい呼び方はわからない。
「21歳」
それだけ答えると、樹は真顔になった。
「家の人に連絡した?」
ううん、とわたしが首を振ると樹はまた携帯に視線を落とした。
「あとで変わってな」
そう言って彼はわたしの手に自分の携帯を滑らせた。
カーキ色のガシッとしたやつ。