夜をすり抜けて
旅の始まり
「ちょっと問題になるかもな」
お母さんの携帯番号をプッシュしようと、樹の携帯をスライドさせたとき、彼がポツリとそう言った。
「問題って?」
「結局俺、お前を拉致っちゃったわけだし」
「でも、わたしが勝手に荷台に上がり込んだから悪いんでしょ?」
「や、コンテナ閉めるときに中を確認しろって、会社からいつもうるさく言われてる。
ドライバーの常識っつーか…。
前に荷主の飼い猫がまぎれこんでいるのに気づかなくて、乗せてった先で逃げられちゃった先輩がいたんだけどさ」
「どうなったの?」
「クビ」
「えっ」
「あはは、気にすんな。早く連絡してやんな」
と樹は笑ったけれど
いや、気にするでしょ、普通。