夜をすり抜けて
「でも…会社に知られなかったらいいんでしょ? 言わなきゃいいんだよね」
いったん携帯を持つ手を下ろして、わたしは言った。
「う…ん」
「でしょ?」
「お前の親、苦情の電話かけると思うぜ」
「え、かけるかな?」
「俺、今からお前を家まで送って行って、家の人にちゃんと謝罪とか出来たらいいんだけど、ちょっと無理なんだわ」
と樹は言った。
「そうなの?」
「今から広島に向かって走んなきゃなんないんだ。
ほら、荷物残ってんだろ?」
あんなに運び出したのに、コンテナ内に積まれていた段ボール箱は、半分ほどが減っているだけだった。
「これを明日の朝一に呉ってとこで下ろして、そこでまた積み荷して、東京に戻るのが夜になる」
「へぇー」