夜をすり抜けて
「…いや、それは別に…行って帰ってくるだけなんで、迷惑なんかはないです。
ただ、お母さんもご心配でしょうし、僕が責任を持って今から新幹線に乗せますから、その方がいいんじゃないですか?」
と、樹はむしろそっちを推している。
…裏切り者!
「はぁ、途中下車ですか? それはそうですが
…様子? え、鞄ですか? ……はい、そうですね」
樹の視線がわたしの上を通り越し、コンテナの隅っこに転がっている学生鞄に向いたので、わたしは急いでそれに駆け寄り、白いマーカーで書かれた下品な落書きが見えないようにサッと裏返した。
そうしている間に二人の話し合いは終わったらしく
「ん」と、樹は携帯電話をわたしの目の前に突き出した。
「替われって」
急いで携帯を耳に当てると
「真琴?」とお母さんの声がした。