夜をすり抜けて

「お父さんは帰り遅いから後で話しとく。心配だからときどき連絡入れてよね。
真琴、自分の携帯は?」


「ない。てか…充電切れ」


携帯はたぶん鞄の奥底に眠っているはずだ。


ひどい中傷メールばっか届くようになって開けるのもつらくなり、充電切れのまんま2ヶ月ほど放置している。


「でも大丈夫だよ、運転手さんに借りてメールするから。アドレス覚えてるし」


お母さんのメルアドはわたしと妹の頭文字と誕生日を合わせたようなやつ。


「運転手さんどんな人? あとで写メしてね」


なんてお母さんは言った。





電話を切って樹に返すと、彼はじぃっとわたしを見た。


「で?」


「あ、よろしくお願いします…」


なんか怒ってるみたいなので、低姿勢に小さい声で言ってみると、樹はフーと溜め息をついた。

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