夜をすり抜けて
「お前は?」
不意に樹が訊いた。
「何が?」
「彼氏とかいるの?」
「い、いないよ、そんなの」
「じゃあ片想いか? クラスに好きな男とかいるんだろ?」
いた…よ。そりゃあね。
すれちがっただけで嬉しくて、いつもヒロミたちにキャッキャと報告していた。
でも彼女たちとの仲がおかしくなって以来、その男子のことなんてどーでもよくなった。
本当に、どーでもよくなった…。
「別にいないし」
「なら憧れの先輩とか?
いいなぁ、俺ももっかい学生やりたいし」
「……」
「ん?」
「…樹はもう十分楽しんだから、いいの」