夜をすり抜けて
何度目かの「トイレ行っとく?」の質問で、わたしは「うん」とうなずいた。
「俺も行くわ」
トラックを降りてパーキングエリアのトイレに向かいながら樹が言った。
「お前、車どれかわかってる? 停めた場所覚えとけよ」
「そんなバカじゃないってば」
それでも振り返ってトラックの場所を確認しながら、わたしは口を尖らせる。
「同じ様なトラックばっかだから、間違って変なやつに連れ去られるなよ。家出少女」
そんな言葉を残して、樹は男子便所に消えた。
女子のトイレに入っていくと中はガランと静かで、人は誰もいない。
用を済ませて個室から出たとき、見知らぬ男に声をかけられた。
お、男っ? …女子トイレだよ、ここ。