夜をすり抜けて

樹…?


瞬間パッと、腕が自由になる。



「おいで、真琴」


電灯に照らされた明るい入口から、この暗がりへ
樹が真っ直ぐに手を差し伸べる。


「おいで」


もう一度彼は言った。



あんなにガチガチだった足が、
心が
スッと、樹に向かって走り出す。




チャラ男たちは樹と揉める気はないらしく


「あれ? 何だ、人違いだったかな」


なんてわざとらしい言い訳をしているのが、背後から聞こえてきた。



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