夜をすり抜けて
――全部話し終わった後
樹は「何だ、それ」と吐き捨てた。
「で、暴力振るわれたり金取られたりはないんだな?」
「うん、そういうのはない」
「無視とか悪口とか仲間はずれとか、あとは幼稚な嫌がらせな」
「…うん」
「ホントにその先輩からラケットもらったぐらいで、そんなことになってんのかよ?」
「たぶん…。ヒロミはその先輩のことすごく好きだったから」
「バッカじゃねーの」
「でもわたし、その前からウザがられてたのかも。自分だけ先輩に気に入られるようにいい子ぶって鼻につくって言われたし」
「それ、認めんの?」
「違うよっ、部活がんばってただけだもん」
涙がこぼれた。
「だよな」
樹の声が優しく響いた。