夜をすり抜けて
「…あったもん」
「あったような気がしてるだけ。そんなのにとらわれてると、道誤るぞ。
さっさと一人になって新しい友達作りな」
樹はきっぱりとそう言った。
「昔のこととか、樹は知らないじゃん」
「知らなくてもわかる」
「教室で一人でいるのがどんだけつらいか、わかんないから簡単に言えるんだよ。
トラックの中とは違うんだからね」
「つらいのは初めだけ。
友達なんてすぐにできる」
わたしの反撃にも樹は動じない。
「…アドバイスはしないって言ったくせに」
悔しくなって小さい声でつぶやいた。
「ムカつくんだよ。
真琴があんまりバカでお人好しだから」
そこまで言わなくたっていいと思う。
いちいち教えてもらわなくても、自分がバカだってことくらいちゃんと知ってるし。