夜をすり抜けて
「で? どっから乗った?」
わたしの説明が終わると、じりじりと切迫した雰囲気でその男は訊いてきた。
「えと、三丁目のひつじ公園の横の…」
「そうじゃなくって、何県何市?」
「へ…?」
「てか、東京だよな。…今日はそこでしか積んでねーもん」
最後の方はひとりごとみたいに、彼は言った。
「…て、ここ、どこ?」
まさかとは思いつつ、訊いてみる。
「浜松」
「…浜松町?」
「ちがう、静岡県」
「て、富士山のある?」
「そう、富士山のある」
「……」
え―――――! う、うっそぉ―――!
わたしの声にならない声を聞きながら、運転手らしき人は悲しそうにがっくりと肩を落とした。
それから、ガーッと頭をかいて情けない声を出す。
「あーもー、どぉすんだよ」