夜をすり抜けて
闇に包まれて
樹はそのまま動かない。
「あ、あの…樹? 痛くした?」
心配になって声を掛けると
彼はその姿勢のまま首を横に振り
それから体を起こすとスッとドアを開けてトラックを降りた。
「車平気か見てくる。ここで待ってて」
樹がどんな顔でそう言ったのか、わたしの場所からは見えなかった。
少しためらって、それでもやっぱ気になって
そっと車を降りて見に行くと――…
暗闇の中、樹は片手をコンテナにつき
うつむいて立っていた。
ときどきもう片方の腕で顔を拭う。
深夜の、車も通らない山道の静けさの中
彼の漏らす息だけが低く響いていた。
樹は、トラックの陰で声を上げて泣いていた―――