夜をすり抜けて
そのとき向こうから走ってくる男の人にぶつかりそうになって「わわっ」とわたしはかろうじてよけた。危ないなぁ。
「ん」
顔を上げると樹が手を差し出している。
あ、え…?
「おいで」
彼の手にそっと触れると、大きな手がわたしの手を包み込み、フードコートへと歩き出した。
樹にしたら、幼稚園児の手を引いてあげるような感覚ね、これ。
手でもつないでおかないと、どっか行っちゃったり転ぶと思われている。
フードコートは食券を買うシステムらしく、その券売機の前で彼はピタッと足を止めた。
大きな手がギュッと一瞬、わたしの手を強く握り、それから…そっと離れる。