幸運の器~Another Stories~
そうしたら、部屋の中の声が聞こえてきた。

「ボス。やはり、匠君に擬似器を与えたのは正解でしたね」

「うむ」

「あのまま、器を与えなければ誰も彼に近づくことすらできなかったかもしれません。彼の力はあまりに大きすぎます」

「だが、必要な力だ」

お父さんの言葉を受けて、別の人が答えた。

「しかし、自分の母親まで消し去ってしまう力ですよ。彼の産まれたときのことを思い出してください。私は、今でも彼の側に行くのは怖いです」

「そうですよ。匠君が産まれた瞬間、出産に立ち会ったスタッフまでみんな一瞬にして消えてしまったんですよ。あのまま力を放出され続けたら、私たちまで危なかったんですから」

僕はもうその後の話を聞くことができなかった。

僕の足は、がくがくと震えだして、言うことをきいてくれない。

僕の耳は、キーンっていう音がずっと鳴っていて、他に何も聞こえない。

僕の目は、景色を消し去り、ただ真っ白な世界を映し出している。

ああ、僕はどうなっちゃったんだろう……。
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