愛の療法
「あの・・・私・・・前の夫と離婚した理由・・・夫の浮気が原因なんです。」

石井先生はうなずきながら私の話を真剣に聞いてくれた。

「それで私は啓介のために・・・我慢しようと思いました。だから別れたくないと夫に泣きながら訴えたんです。でも・・・夫は理解してくれなかった。」

そこまで言うと私は涙がこぼれそうになった。
でもそれを必死でこらえながら続けた。


「不倫相手にも子供ができたからっ・・・産ませてやりたいからっ・・・不倫相手と結婚するから別れてくれって・・・土下座されたんです。私と別れるために土下座をしたんです。今までプライドが高くて一度も私に謝ったこともなかったのにっ・・・!!」

そう言うともう涙はこらえきれなくて私の瞳から溢れ出てきた。


すると先生は私の背中を撫でてくれた。
前も私が泣いたときにこうやって私を慰めてくれた。


「僕もですよ。妻の浮気が原因で離婚しました。気付いたら机の上にもう僕がサインするだけの離婚届があって・・・会話もないままに離婚は成立しました。」


同じ境遇の石井先生に私はすっかり心を信用していた。


不思議そうにこの光景を見ている啓介。
泣き続ける私。
優しく慰める石井先生。



私達3人の関係はこれから変わっていくことも知らずに――・・・。

そして「先生」「お母さん」と呼ぶ関係が変わることも・・・。
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