*恋の味[下]*


――……数分後。

雷斗の頭が私の肩から離れた。

やっと聞こえた声が、沈黙を破り、私の胸をならせた。

「ぜってー離れんな」

それは、私くらいにしか聞こえないくらいの小さな声。

でも、精一杯だしたような声。

「な、なにいきなり…」

もはや、そんな言葉は雷斗の耳には届かない。

いや、届けれない。

雷斗の神経は……、私のちゃんとした答えを待つためだけに集中していた。

その瞳に、思わず息をのむ。

「ぜってー離れんなよ」

同じセリフ…。

……なに?

次はなにが起ころうとしているの?

いつもふざけている私でも分かる。

雷斗の“瞳(め)”で分かる…。

隠しているつもりなんだろうけど…!

――……また何かが始まろうとしている。

私たちを不安にさせる、“何か”が…。

「離れ…るわけないじゃん!」

大丈夫だったかな?

私、ちゃんと笑えてた?

いつもみたいに言えた?

……言えてないよね。

だって、雷斗…。

複雑な表情してるもん。

……大丈夫。

私は大丈夫だよ…。

雷斗が言ってくれるの、待つから。

いつも私の方が先に折れてた。

今の関係でいれてるのは、雷斗のおかげ。

だから、次は私が雷斗を救う。助ける。


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