*恋の味[下]*
時間は刻々と過ぎていく。
喧嘩をして約10分後、お父さんがリビングにきた。
「腹減っただろ?」
何事もなかったように話かけてくるから、私としては好都合だった。
気まずいのは苦手…。
「まぁね!」
だから、私も普通に返す。
お父さんは、優しく微笑み、
「病人のために、うどんでも作るか」
食べに行くのは中止、と遠回しに言ってるようなもの。
私が自分を責めないようにと、気をつかってくれてるのだろう。
「じゃあ、私買ってくるよ!」
近くにあったバッグを手にとり、立ち上がる。
ドアに手をかけたが、ドアノブをつかむと同時に、誰かに止められた。
「いや、暗いし俺が行くよ」
ちょっと不自然すぎたかも…。
あー、バカバカバカ。
私のバカ!
だってまた、お父さんを不安にさせた。
そうに違いない。
私の手をドアノブから離して、近くのデスクにあった財布を、ズボンの後ろポケットに入れて、リビングを出ていった。
その後ろ姿を静かに見つめる。
幸せとは怖いもの。
私が幸せになれば、誰か1人はツラい思いをする。
最低でも……1人は…。
みんながみんな、幸せになれるわけないって……、知ってるのに……。
一番身近な人が傷ついている。
私は何をすればいいのだろう…。