*恋の味[下]*
切られた電話は、虚しく機械音が鳴る。
「……いくか」
私は携帯と財布を小さいカバンの中にいれて、部屋を出た。
「お父さん、行って来るー!」
少し大きめの声で言うと、
「約束守れよー!気をつけろよー!」
と返ってきた。
よしっ!と意味もなくガッツポーズをして、玄関に向かった。
玄関には、私の学校用の靴と、お父さんの靴の二足だけが並べてあった。
シューズクローゼットからキャラクターの健康サンダルをはいた。
ちょっと分厚めのパーカーにTシャツ、ジャージにキャラクターソックスに健康サンダルという、柄の悪そうで、兼ラフな格好で外に出た。
外は思わず身震いがするほど寒くて、まさに真冬だった。
「あー、さっぶ!」
小さい声で呟く。
まったく、年頃の少女を夜に出さすなんて。
なんて文句を頭の中でブツブツ呟きながら、エレベーターのボタンを押す。
今、1かいにいるため、上がってくるのに時間がかかる。
もー、2かいがよかったー!
「はよ、きてぇー」
また独り言を呟き、少しでも温かくなれるよう、周辺を動き回る。
“チーン”
あ、きた!
私は寒さから逃げるように、エレベーターの中に入った。