とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
ただ触れただけのキス…
なのにその感触が鮮明に残る…
違う…身体が憶えてるんだ…
忍を憶えてる。
「…なんか思い出せた?」
「…まだ足りない…忍が…」
右京はそう言ってもう一度キスをする…
「…まだ?」
「まだ。」
次第に深くなるキス…
甘く…媚薬に似た忍の感触…
愛しくて…忍の全てを手に入れたい衝動にかられる。
彼女の吐息やキスの合間に漏れる声…
─全部憶えてる。
忍はキスの時いつも俺の髪を掻き上げて耳にかける…そんな癖まで鮮明に憶えてる。
「…どお…?思い出せた?」
「…もう少し…」
右京は嘘をついてまた忍の唇を塞いだ。
少し強引なキスに忍は小さく喘ぐ。
「…忍…大好きだよ…ずっと…」
至近距離でそう呟く右京に忍は瞳を潤ませながら「知ってるわよ」と答えた。
忍への気持ちは思い出せたが不思議といつもの様に背中は痛まなかった。
と同時に何か大切な事を忘れている気がする…。
不安そうな右京に気付いたのか忍は「大丈夫」と彼を抱き締めた。
「少しずつでいい…ちゃんと思い出せるよ…きっと」
その言葉に右京は「ん」と短く答えて忍を抱き返した。