とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
そんな事を考えているとポロポロと昔の事が自然と思い出された。
「着いたよ。見てごらん。」
視線の先に広がる景色に忍は「わぁ…」と感嘆の声を漏らした。
少し開けたその場所は透き通った水を湛える泉だった。
木漏れ日が差し込み、まるで絵画のような幻想的な美しさに忍は目を奪われる。
「すごい…」
「前に散歩してて見つけたんだ。」
近くの木陰に腰を下ろしてその景色を楽しむ。
暫く二人は沈黙していたが、右京が口を開いた。
「…忍の傍に居ると、自分が記憶を無くしたのが嘘みたいに感じるよ…」
「ホントね…実は嘘なんじゃない?」
「だったら良かったんだけど…話してると思い出が溢れて来るんだ。不思議…」
溢れた落ちた記憶を拾い集めて少しずつ形を取り戻す。
全貌は未だ見えないけど、自然のこんな景色を見ているとそれがちっぽけに思えた。
「…忍だけ思い出せればもういいかな…」
「そんな訳ないでしょ!だって右京は…」
そこまで言って忍は口を接ぐんだ。
右京はそんな忍の様子に気付かないフリをして「そうだよな~」と笑った。