とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
バージはウキョウに頬を寄せ何か言いたげな顔をした。
『大丈夫だよ。お前のお陰で助かった。…ありがとう…』
そう言うとバージはまたピュィと鳴いた。
多分バージは記憶が無くなる前の自分を知っている。
ウキョウはただ漠然とそう思っていた。
『バージ…俺は何者なんだ…?』
バージはウキョウの問いにただ首を傾げるだけだった。
自分の中に蘇った教会の記憶は、先程の司祭の説教をも覆すものだった。
しかもどの記憶も鮮明で間違えだとは思えない。
自分の記憶が正しいと仮定して、何故それを知っているのかがわからない。
ふとバージと目が合った。
─焦らないで。
いずれ答えは見つかります。
『…そうだな…ありがとうバージ。』
時々聞こえるバージの声。
それは耳ではなく直接頭の中に届く。
コーディにバージの言葉が判るのかと聞かれ、そんな気がするだけだと答えた事がある。
こうやってはっきり頭の中に話しかけて来る時もあるが、大抵はバージの思考は手に取るように読めた。
それはバージが特別だと思っていたが、実際に特別なのは自分の方かもしれない。
さて…戻るか…
ウキョウが立ち上がるとバージは意図を察したように飛び立っていった。