とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
第一章
少女の暮らしは決して楽ではなかった。
毎朝日の出と共に起きて近くの泉まで水を汲みに行く。
両親を病気で亡くしてから、2つ年上の兄と1つ年下の弟と一緒に暮らしていた。
納屋で馬の世話をしていた兄を見付けて駆け寄る。
『おはよう、兄さん!』
『おはよう、ミーシャ。今日は寝坊しなかったみたいだな。』
そう言われミーシャと呼ばれた少女は少し顔を赤くして『もうしないもん!』と口を尖らせた。
兄はそれを見てクスリと笑うと自分の馬に『あの台詞何度目だっけ?』と問いかけた。
馬はブルブルと鼻を鳴らして彼の問いに応えた。
ミーシャは泉までの道を早足に歩く。
急がないと兄が仕事に行く時間に間に合わない。
泉まで来ると冷たい水を汲み、ついでに顔を洗った。
『うぅ~…冷たい!』
身震いしたその時、頭上で甲高い鳴き声が聞こえて空を仰いだ。
『鷹…?…鷲かなぁ…珍しい!』
空は昨日の嵐が嘘の様にいい天気だった。
水をいっぱいに汲んだバケツを持ち上げて戻ろうとした時、向こう側に人が倒れて居るのに気付いた。
恐る恐る近付いて覗き込む。
…死んでたらどうしよう…
荒い呼吸を繰り返すそれを見てホッとすると共に『大変!』と慌てて自宅まで戻って行った。