とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
そうなると人の記憶も曖昧になり、信頼度もガクッと下がる。
『…で、捜査が難航してるのか?』
『いや、捜査らしい捜査はされていない。』
噛み合わない会話に右京はちょっと眉を寄せ、“何故?”と言いたげな目をする。
『届けが出されたすぐ後で、帰って来んだよ。』
『…全員!?』
『ああ。記憶は一部欠落していたらしいが、ほぼ無傷でね…』
ニックは『不自然だろ?』と右京を横目で見た。
確かに不自然だ。
まるで“帰って来るタイミングを見計らって届け出た”ように…
考え込む右京は、既にP2のすぐ側まで来ていたのに気付いて顔を上げた。
一階のテナントにクリスのアンティークショップ、その脇の狭い階段を上がれば本部だ。
…良かった…記憶と同じだ…
時々右京は不安になる事がある。
“もし、自分の記憶が書き換えられていたら…?”
間違った記憶を正しいと思い込み、その中で生活していたらと考える時があるのだ。
記憶と現実の“ズレ”が自分の存在を否定されてしまう気がする。
前にその話をしたら忍に笑われたっけ…
そんな事を考えながらP2へ続く階段をニックの後に続いて登った。