とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
─自分を責めないで誰を責めろって言うんだ!
やり場のない怒りを抑える為に握った拳に力を込めた。
手の平に血が滲む。
それを見て“流れた血が自分の血で良かった”と思うと気持ちが少し落ち着いた。
右京は溜め息をついてソファに腰を下ろして項垂れた。
『…忍を…喰い殺そうとしたんだ…』
殺そうとした訳ではないが、あの状況で自分がキバを立てれば間違いなく彼女は死んでいた。
それも何度も…。
『…“喰い殺す”?』
『ああ…突然喰いたいって衝動に駆られるんだ…無意識に…。』
その時入口から入って来た人物が『…“ベルセルク”だ。』と言った。
右京が振り返ると“彼”は真っ直ぐ見詰め返してそのまま話し続けた。
『“ウールヴヘンジ”とも言われている鬼神の如く戦う戦士だ。…だが、忘我状態となる為味方にも襲いかかる。』
『…人を喰うのか?』
唖然とする右京の代わりにアランが“彼”に疑問を口にした。
『ベルセルクは獣が憑依したような状態だ。…飢えていれば喰うだろう。』
彼はゆっくりと近付くと右京の肩に手を置いた。
『久しぶりだな…右京。』
『…クリス…』
彼は紛れもなくこのビルの一階にあるアンティークショップの店主、“クリス”だった。