とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
“クルースニク”
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クリスの父親は日本人だったが、母親はスラブ人だった。
生まれは父親の故郷である日本だったが、10歳前後から母親の故郷イストリアで暮らす様になった。
何故突然引っ越す事になったのか当時判らなかった。
母親は『あなたは選ばれた者なのよ』とクリスに繰り返し教えた。
何に“選ばれた”のか…
それを知ったのはイストリアで暮らし始めて半年程してからだった。
その日、真夜中に起こされて集落にある教会へと連れていかれた。
月もない真っ暗な夜道が怖かった。
『どうしてこんな時間に教会へ行くの?』と聞くと、母親は『これからあなたは試練を受けなければならない』と答えた。
まだ10歳そこそこの少年は“試練”と言われても何を言っているのか理解出来なかった。
不安そうな彼に母親は『あなたは私の誇りよ』と微笑んでくれた。
なんだかそれが嬉しくて、漠然と“頑張らなくては”とクリスは思った。
─きっと大変な試練なんだろう…
そう身構えていたが、教会には年老いた牧師とクリスの父親、そして見たことがない青年が居ただけだった。