とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
伯爵の館
◇◇◇◇◇◇◇◇
右京の指示でこの気味の悪い人間については来たが…
バジリスクはチラッと横目で男を盗み見る。
荒い息…
冷や汗でグショグショの髪…
虚ろな瞳…
右京は“自我崩壊”と言っていた。
もし崩壊したら自分を襲うのだろうか?
だが“殺るな”という命令だ。
自分の血を啜りでもしたらバンパイアだろうが確実に死ぬだろう。
どうするべきかバジリスクは考えながら男の隣を歩く。
『…ねぇ…具合大丈夫?』
そう心配しているフリをして声をかけた。
『だ…黙ってついてくればいい…いいとこに連れてってやる…』
さっきっからずっとこの会話の繰り返しだ。
─マスター…もう20分くらいこんな感じですが…
─多分そいつの主人の所にお前を連れて行く気だろう。
なるほど。じゃあ生かしておかないといけない。
辺りを少し見回すが右京の姿は見えない。
─マスターは私が見えてるんですか?
─お前の服に発信器が付いてる。場所は把握してるよ。
よく判らないが“ハッシンキ”というのが自分の居場所を知らせているらしい。