とある堕天使のモノガタリⅢ ~ARCADIA~

探偵アンダーソン




   ◇◇◇◇◇◇◇◇


小さな部屋の一室で初老の男は依頼人のファイルを並べて深い溜め息を着いた。




『なんでこう失踪事件ばかり…』




思わず愚痴を溢して彼は目頭を揉んだ。




リリリリリリ――ン…




突然鳴り出した電話に我に返ると慌てて受話器を取った。




『はい、アンダーソン探偵事務所…はい…はい、そうです。…え?…娘さんが失踪…ですか…』




彼…アンダーソンは内心“またか”とうんざりした。




刑事を定年退職したのは約一年前だ。




退職して一ヶ月は娘夫婦に会いに行ったり、孫と遊んだりして有意義に過ごした。



だが、それも最初だけで、ずっと仕事一筋だった彼は家でのんびり老後を過ごす事に耐えられ無かった。




見かねた妻は困った様に笑いながら夫にこう言った。




『そんなに家で燻っているなら、やりたい事をやればいいじゃないですか…』



“やりたい事”と言われて真っ先に浮かんだのは他でもない“仕事”だった。




妻にそれを言うと、さも楽しそうに彼女は笑った。




『あなたは根っからの仕事人間ですからね~…』




アンダーソンはそんな穏やかな妻の後押しもあり、半年前に念願の探偵事務所を立ち上げたのだった。




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