とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
だがこの伯爵邸で殺人があった事は記憶にない。
ペンライトで壁を照らした時、あるものを見付けてアンダーソンは息を飲んだ。
─“弾痕”だ…!
ポケットから万能ナイフを取り出すとその弾痕を抉る。
『…あった…!』
出てきたのは45口径の弾丸だった。
彼はそれを大事にハンカチで包むと内ポケットに仕舞った。
『この高さだと…この椅子に座っていた人物を向こう側から狙ったのか…?』
テーブルの向こう側を見てアンダーソンは眉間に皺を寄せる。
意外と距離がある。
もしあの位置から撃ったのなら、かなり狙撃の腕がある人物だ。
ただのチンピラとは思えない。
アンダーソンは足元を照らし、漂白された跡がないか調べる。
『…おかしいな…何もない。』
では何処に漂白剤を使った…?
ふとテーブルが一ヶ所だけ変色しているのが目についた。
『…これだけか?』
位置的におかしい。
弾痕と方向が一致しないし、何より血痕があったとしても大した量ではないだろう。
『って事は殺人じゃないのか…』
そう結論に至ると一瞬過った推理が間違っていてホッとした。