とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
新しい住人がもう引越して来たのだろうか。
そうだとしたら随分急な話だ。
おまけにこれだけの敷地なんだから、金持ちに違いない。
─どんな人物だろう…。
フェンスの間から首を伸ばして覗いてみる。
突然屋敷の一階の灯りが灯ったかと思うと、テラスへ誰かが出てきた。
反射的に身を隠す。
『…誰か居るんですか?』
隠れたのを見られたのか、そう言われてアンダーソンは渋々姿を見せた。
『…すみません…この屋敷が売れたって聞いたんで…ちょっとした興味本位でこんな真似を…』
そう言うアンダーソンにその人物がクスッと笑ったのが判った。
『そうでしたか。ゴーストハウスに住む物好きを見に来たって訳ですね?』
意外と若い声に良く見えない目を凝らす。
雲の切れ間から覗いた月のお陰で彼の顔が見えた。
色白でやせ形の長身。
背筋をピンと伸ばした姿は品の良さを際立たせる。
『…独りでこんな所に来るなんて…無用心過ぎますよ?』
ニヤリッと気味の悪い笑みを浮かべる青年にアンダーソンは背筋がゾッとした。
『おい!クドラク!』
後ろから誰かに呼ばれたらしく、青年は舌打ちをして振り返った。