とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
境界
夢の中の彼が言った。
─ごめん…忍…
なんで謝るの?
そう聞いても彼はその問いかけに答えない。
─離れていても、愛してるから…ずっと…
もう嫌だ!離れたくないよ!
彼は答えない。
無視しているんじゃない。
聞こえていないんだと気付いて思いっきり手を伸ばす。
彼を捕まえておかないとどんどん遠くへ行ってしまう気がする。
そんなの絶対嫌だ!
彼も…右京も手を伸ばして掴めそうなのにギリギリ届かない。
届かないと判っていても諦めたくなかった。
絶対…絶対に諦めない!!
そして聞こえないかもしれないけど大声で叫んだ。
「待ってて!そこに居て!私が…迎えに行くから…!!」
…夢は…いつも決まってそこで終わる。
目を覚ました時、泣いているのもいつも同じだ。
右京が居なくなってしばらくは頻繁に見ていた夢も、最近では週に一度見る程度になっていた。
別に右京を忘れてかけているとか、そうではない。
就職をして慣れない生活と、予想以上にハードな仕事のせいで夢すら見れないのだ。
忍はまだ疲れの残る身体を起こし、ノロノロと仕事の準備を始めた。