とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
研修期間が終わり4月に入って大分暖かい季節となった。
担当のニコールはあれから自分を気遣ってよく連絡をくれる。
右京が消えた後の記憶が曖昧でぼんやりしている。
夢と現実の狭い隙間に居るような感覚。
現実へ行きたいけど夢に右京を置き去りにしてしまっていて、今もその境界にとどまって居るのだ。
その狭い境界をさ迷い、右京に手が届く所を探し続ける。
夢の暗い所にいる右京の幻影はまだ遠い…
でもハッキリと姿が見えた。
それが忍を動かしている。
─会いたい─
その想いが忍の原動力となっている。
気が付くと電車に乗っていて、職場の最寄り駅だった。
慌てて降りる。
忙しない通勤ラッシュの人の波は忍の気を紛らわせてくれた。
「おはようございます!」
「おう、黒崎!お茶!」
何か勘違いしている先輩達に溜め息を着く。
「お茶じゃなくて挨拶が先ですよ?」
そう言うと笑いながら「堅い事言うな」と忍の肩を叩く先輩。
「黒崎の入れたお茶飲まないと仕事する気にならないんだよ!」
そんな調子のいい事を言われ忍は少し吹き出した。