とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
その黒い影が奇妙な事に気付いた。
─なんだ?…アレは…
人と呼ぶにはデカ過ぎる、2mは裕に超えるそれを右京は怪訝そうに睨む。
ゆっくりとスローモーションの様に此方を振り向き、歪な頭の形に呆然となる。
…違う、歪なのは頭ではなく正確には頭から突き出た湾曲した角だ。
まるで山羊のような角の野獣(モンスター)…
ソイツは右京と目が合うとあり得ない程裂けた口でニヤリッと笑った。
『…なんだ、おめぇ…?』
その言葉を無視して野獣は女に向き直った。
『…ッ!!…』
振り上げた腕のシルエットが闇に浮かび上がり、右京は咄嗟に力を放った。
一瞬右京の両目が紅く光る。
…と同時にパァン!!とその腕に刃の様な風が当たって野獣が動きを止めた。
野獣の腕に無数の切傷が出来、それを納得いかなそうに彼は眺めている。
右京は足元から吹き上げる風を纏いながら、その野獣にゆっくり近づいた。
─グルルルルルルルル…
低く唸り声を響かせ右京に目を向けたがそのまま闇に紛れ消えて行った。
─…逃げた?
右京はふぅと息を吐くと軽く前髪を指で払う。
『大丈夫か?』
そしてガクガクと震えて動けずにいる女に手を差し出した。