とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
P2に向う時はいつも徒歩と決めている。
本当は先月買ったフェラーリを乗り回したいのだが、あれでは目立ち過ぎてしまう。
退屈な道のりはiPodでクラシックを聞いて紛らすのがアランのスタイルだ。
P2に着くとまずゆったりとしたクッション性の高い椅子に腰をかけ、メガネを磨く。
そしてお決まりの台詞を吐く。
『ロイ、状況は?』
それに対してオペレーターのロイからは『上々だ』か『ヤバイね』のどちらかの台詞が返ってくるのが常だ。
…が、この日ロイから返って来た台詞は全く違うものだった。
『クロウが腐りかけてるぜ。』
『それはマズイな…。』
何がマズイっていつもと違う台詞が返って来た事だ。
そういう日は大概問題が起こる。
その問題は大小様々で、P2だけでなく大学でだったりプライベートだったり色々だが、とにかくいい方に向かった試しがないのだ。
─腐りきる前になんとかしないと…。
アランは誰にも気付かれないようにこっそり溜め息を着いた。
隣の部屋の扉を開けると、窓辺に座ってタバコを吹かす右京に近付いた。
『どうかしたか?腐りかけてメタンガスが口から出てるぞ。』
そんなアランのジョークに右京はちょっと笑いながら『そりゃ、すまない』と灰皿にタバコを押し付けた。