とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
母は塞ぎ込む忍に「無理する必要はない」と言ってくれた。
「私も右京は帰って来ると思ってるけど、忍は自由に生きていいのよ?」
多分右京もそう言うかもしれない。
でもそんな気は全くなかった。
右京を思い出になんて出来る訳ない。
翌日忍は家を出る前に両親に「右京を捜してみる」と伝えた。
「だから…今回は帰国が少し遅れるかも…」
「そうか。…連絡はちゃんとするんだぞ。」
父はそう言って送り出してくれた。
そしてイギリスに到着したのは現地時間の夕方だった。
空港でニコールに電話を入れてから仕事用アパートへタクシーで向かった。
『シノブ、久しぶりだね。』
アパートで出迎えたニコールは忍にハグして部屋に招き入れた。
『ニコールも元気そうで安心しました。』
そう言うとニコールは微笑んで荷物を運んでくれた。
自分の部屋と化したプライベートルームにあるラフな服に着替える。
ふとクローゼットの中にある右京の服が目に入った。
微かに右京の香水の匂いがして胸が痛む…。
『シノブ、コーヒーでいいかい?』
ニコールの声で我に返って『はい、ありがとうございます』と慌てて答えた。