とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
殴られた頬を擦りながら、さっきの右京の冷たい目を思い出して背筋が凍り付く。
罵ってくれた方がマシだと思えた。
あそこまで誰かに対して怒っている姿を見たことがない。
『…ヤバいって…マジ惚れそう…』
─シノブにではなくクロウに…。
怒らせておいてそう思うの自分が可笑しい。
男から見てもあの男は格好いい。
ムカつくくらい…。
『…はぁぁぁ…殺されなくて良かった…。』
そう思った時、メールを知らせる音が聞こえて痛む頬を押さえて携帯を開いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇
そのまま忍がいる部屋に戻る気になれず、ロビーのソファに座ってタバコに火を付けた。
酷い自己嫌悪の波に襲われる。
忍も悪くないし、ニックも悪気があった訳でもない。
誰かが悪いとすれば“自分”だ。
ニックを殴ったのもただの八つ当たりに過ぎない。
ただ思い通りにならない事に腹がたっただけ…。
最近そんな事ばかりだ。
『はあぁぁぁ…』
ガックリ項垂れ足元に視線を落とす。
人の気配がして手元が陰ると、右京はゆっくり顔を上げた。