とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
不安そうな表情の忍が自分を見下ろす。
無言のまま真っ直ぐ見つめる右京に躊躇いがちに「あのね」と口を開いた。
「隠してたとかじゃ…ないの…ただ、あの行為の意味が理解出来なくて…」
「キスの意味なんて判りきってるじゃん。」
「じゃなくてっ…なんでされたのか…とか…」
「忍が無防備だから。少しは危機感持てよ。」
コクリと頷く忍にフッと優しく微笑むと忍の目から涙が溢れ出した。
両手で顔を覆って「ごめんね」と繰り返す。
「怒ってない。ただ悔しかっただけ。」
右京はタバコを消すと忍の腰を引寄せた。
忍の目元を指で拭う。
泣き止まない忍に「お前が泣くなよ」と茶化す。
「だって…!右京に嫌われたかと思った…」
「まさか!俺が忍を嫌うとかあり得なくない?」
「でも、私が逆の立場ならヤダもん!」
「え…あ、そう…?」
一瞬ジュリアの事が頭を過って動揺した右京を見て忍の涙が引っ込んだ。
「…なに今の…」
「な…なにが?」
「今一瞬間があった。」
「は?気のせいだろ。さ、部屋戻るぞ。」
早口で捲し立てて立ち去る右京を忍は慌てて追いかけた。