とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
『時間です。…巧いこと逃げられたんですかね…』
約束の時間に現れ無かった彼らに、部下が溜め息混じりに呟いた。
月が雲に隠れてその表情を見ることが出来なかったが、落胆しているだろう事が想像出来た。
風がまた強くなった…。
また顔を出した月のお陰で部下の表情がやっと判った。
ふとその後方の観覧席に誰かが居るのに気付いた。
─あの男は…。
見たことがある。
確かクルースニクの中でも今時珍しく単独で動いている男だ。
─名前は…“クリス”だったか。
片足を上げて座る彼の隣に、足を組んだフードを被った男が見える。
オラルの視線に気付いたらしく、クリスが軽く手を挙げた。
隣のフードの男が何かを言うとクリスが彼を小突いた。
仲の良さそうな様子にオラルは少しホッとして彼らに近付いた。
『久しぶりだな、オラル。…お前だったか。』
『クリス。毎度派手にやってくれる。…後処理が大変だ。』
短い会話を交わし、隣の男に視線を移した。
『ども。うちの“犬”が噛み付いたみたいで…悪かったな。』
フードを奥のグリーンアイがオラルを捉える。
風で銀色の彼の長い前髪が揺れた。