とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
暫く沈黙が続く。
オラルはクリスに聞きたい事が山ほどあった。
それが顔に出ていたのか、クリスがこちらをチラッと見て口を開いた。
『俺がアイツらと行動してるのが不思議か?』
『…それもある。まだ何処まで信用していいのか決めかねているよ。』
クリスと初めて会ったのはもう10年程前だった。
当時彼はグレイというクルースニクと行動していた。
一人前としてバチカンで洗礼を受けた彼はまだ幼さの残った青年だった。
そのすぐ後でグレイが死んだと報せを受けた。
再びバチカンを訪れたクリスに仲間を斡旋しようとしたが、彼はそれを拒否した。
『仲間が死ぬのを見たくない』
確かそんな理由だったと思う。
クリスはむやみに人を信用しない男だ。
その彼が今は仲間と居る。
─あの右京って男はそれだけ信用出来るって事か。
『…グレイ以来初めてなんだ。…安心して背中を預けられるヤツは。』
そこまで言い切るからには相当出来る男なのだろう。
『右京はバチカンを敵に回したくないと言ったが…俺に言わせれば、“右京を敵に回したくない”。』
『ふ…それは言い過ぎじゃないか?』
『オラル…右京がその気になればバチカンなんか敵じゃない。』
クリスの目が真剣なのに気付いてオラルもその言葉の意味を考えた。