とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
顔を洗って馬の世話をするユーリの元に向かう。
ウキョウに気付いてユーリが手を上げた。
それに応えると甲高い鳴き声が聞こえて空を仰ぐ。
『さっきからずっと待ってたみたいだぞ?』
ユーリはバージを指差してウキョウにそう言うと自分の馬にブラシをかけた。
『今日は少し寝過ごしたからな…』
ウキョウが口笛を吹くと、それに反応して降下したバージがいつもの様に近くの木に舞い降りた。
ウキョウはバージに『おはよう』と言ってから軽く準備運動を始めた。
そして少し目を閉じて精神統一をしてから構えて拳を繰り出した。
身体を動かしながら夢の中で言われた言葉を思い出した。
“朝稽古するんでしょ?”
脳が命じるのではなく身体が自然と動く。
多分長年の習慣だったのだろう。
夢の中の彼女はそんなウキョウの習慣を知っていた。
だが彼女の顔がどうしても思い出せない。
モヤモヤとした気持ちを振り払うように身体を動かす様子をユーリは黙って眺めていた。
『ウキョウは格闘家なのかもな…』
『…どうかな…』
あの彼女に会えればそれも解るだろう…。
最近はユーリの仕事を手伝いながら毎日街まで行っているが、無くした記憶が甦る事は無かった。