とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
『ちょっとした発作だから休めば大丈夫。
じゃあ俺達はこれで…』
ユーリは彼に『良い旅を!』と笑顔で手を振ると自分も馬車に乗り込んだ。
『おい!大丈夫か!』
『思い出した…』
身体を抱いて荒い息を繰り返すウキョウは弱々しい口調でユーリに言った。
『ユーリ…俺は日本人だ…』
『はぁ?何を…』
『くろさき…そうだ、“黒崎右京”だ…それが俺の名前…』
家は古武道の道場で、幼い頃に養子として引き取られた…
家族は…
『…おかしいな…家族の顔が出て来ない…』
凄く大切な人達なのは憶えているのに、その家族が出てこない。
『判ったから無理するな!
少し休んでろ!』
『…悪い…少しだけ…』
そう言うとウキョウは浅い眠りに落ちて行った。
村まで二時間程だったが、その間ウキョウが起きる事は無かった。
そして家族の事もそれ以上何も思い出せ無かった。
ユーリは『名前を思い出しただけでも進歩だよ。』と慰めてくれたが、ウキョウの心のモヤモヤは全然晴れ無かった。