とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
二人がラム酒の樽を馬車に積み込む作業に追われる中、甲高い鳴き声に右京は空を見上げた。
手を止めた右京にユーリが首を傾げる。
『どうした?…バージか?』
『ああ…なんだろ…』
村ならともかく、街には絶対に姿を現さないバージの鳴き声に右京は胸騒ぎがした。
ピィーッ!と口笛を吹くとバージが旋回しながら高度を下げた。
『なっ…!?…鷲か!?』
出荷作業を手伝っていた造酒所の若者は、見たこともない大きな鳥の姿に少し怯えた。
『大丈夫だ。アイツの相棒だよ。』
ユーリが後ろで右京を指差してそう言うと、若者は離れた場所からその様子を見ていた。
ユーリは右京に近付くと彼にだけ聞こえる声で話し掛けた。
『…なんて言ってる?』
『解らない…何かが“大変だ”って…』
─早く!…助けないと…!
何を助けないとなんだ?
バージはただ、“早く!”と繰り返す。
『…ユーリ…ちょっと行って来る。嫌な予感がする。』
『ああ。さっきの酒場で待ってるよ。』
ユーリもただ事ではないバージの様子が気になったらしい。
右京は『悪いな』と言いながらバージの後を追って駆け出した。