とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
ジュンは何も教えてくれなかった。
彼の様子からして“シノブ”より先にジュンを思い出したのが不満だった様に思えたが…
多分、自分にとっても“シノブ”は重要な存在なのだろう。
ふと、夢の中の“彼女”を思い出した。
…あの人より“シノブ”は大切な存在だったんだろうか…?
“早急に思い出せ”と言われたが、どうしたら思い出せるのかが判らない。
『ムチャクチャじゃねぇか…だったら少しくらい教えろよ…』
独りで悪態をつきながら歩き続け、気付いた頃には既にもう街に辿り着いていた。
コーディを抱いて酒場に入って来た右京を見てユーリは慌てて駆け寄る。
『えっ…コーディ…!?』
半ばパニック状態のユーリに事情を説明すると、彼はただ『ありがとう』と繰り返した。
ギュッと小さなコーディの身体を抱きしめるユーリを見て、右京は満足そうに微笑んだ。
『…強盗は!?』
傍に居たアジア系の男にそう言われて、そいつが途中で強盗被害に遭ったカメラマンである事に気付いた。
『強盗は見当たらなかったよ。』
そう言うと彼はがっくりと肩を落とした。
右京は『残念だったな』と彼を慰めた。