とある堕天使のモノガタリⅢ
~ARCADIA~
街の宿屋は酒場の二階だけだった。
右京は眠ってしまった忍をしばらく見つめ、そっと頬を撫でる。
泣きはらして少し赤い目元…長い睫毛…艶やかな黒髪…形の良い唇…
衝動的にその唇に顔を近付け…我に返って思いとどまる。
…何考えてんだよ…
ガシガシと銀髪を掻いて右京は忍の部屋を後にした。
下の酒場へと降りるとユーリが右京に気付いて手を上げた。
『やっぱり忍が例の彼女だったみたいだな!』
『ああ~…そうなんだけど…さ。』
『なんだよ、嬉しくないのか?』
『嬉しいよ、普通に…』
ユーリと右京の会話を聞いていたニコールは『なぁ…』と口を挟んだ。
『お前…本当にクロウだよな?』
『クロウ…って呼ばれてたのか…』
『ああ…ってか…調子狂うわ…お前はもっと自信家だったぜ?』
自信家…か…
自分はどんな人物だったんだろう…
凄い嫌なヤツだったらと思うと知りたくない気もする…
右京の不安そうな表情を見てニコールはクスクスと笑い出した。
『言っとくけど、俺の知ってる“右京”は完璧なヤツだった。
…しいて欠点を挙げるとすれば、シノブを溺愛してたって事くらいじゃねぇ?』
溺愛って…
いまいちどんなだったか想像がつかない。