そばにいて
「桜宮薫子さんをご存知ですか?」
薫子さんの名前を聞いて、お茶の準備をしている龍之介さんの手が止まった。
そして、静かに準備を終えお茶を運び終え静かに口が開かれた。
「桜宮薫子ではありませんよ。東雲薫子です」
そう言った龍之介さんは、とても寂しそうに外されることがなかった左手の薬指にはめられた指輪を優しく撫でていた。
「何故、貴方が薫子のことを知っているんですか?」
寂しそうに笑う龍之介さんを見て、僕は思わず声を張り上げて言ってしまった。
「薫子さんは生きています!」
龍之介さんの表情は、まるで信じられないと言っているようだった。僕は、気にせずに言葉を続けた。