愛し(かなし)
大学の授業を終えて、家路につく。
夕焼けが綺麗過ぎてまた心が寂しくなる。
涙がでそうになる。
前から人が歩いてくるのがわかり、涙を堪える。
普段なら通りすがりの人なんて気にしないが、その人には目が行ってしまった。
若い、男の人。背が高い。黒っぽい格好。
細くて華奢な体。黒髪に白い肌が映える。
黒のパーカーのフードには、猫耳?
なんで猫耳なんだろう。
綺麗な顔をした人だった。
「連れて行ってやるよ」
空耳?と思ったけれど彼の口から発された言葉だった。
深くて、耳に響く透明感の有る声。
『連れてく…って何処に…う゛っ!』
私が言い終る前に彼は私を刺した。
脇腹に痛みを感じる…と思ったけれど、痛くない…?
「行きたいんだろ?あいつの所に」
通りすがりのその人が私の耳元で囁く。
私はゆっくりと目を閉じた。