グリーンライダー
 まだ喉の渇きは残っているが、致し方ない。
 一度喉が渇いたと感じてしまうと、必要なだけ水分を摂っても直ぐには治まらないと聞いたことがある。
 俺はもう一度水をすくうと、顔を洗った。
 タオルなどはないので、シャツで顔を拭く。
 ハンカチは持たない主義だ。
 顔を洗うという行為と共に、彼女との喧嘩が俺の頭を過ぎる。

 実に下らない理由だった。
 それこそ味噌汁の好みの違いような、そんな理由。
 彼女は前々から、シャツの裾やズボンで手を拭く俺の癖が嫌だった。
 そこで色々ある記念日を利用して、俺にハンカチをプレゼントしてくれた。
 でも、俺はそれを使わずにいた。
 別になくしたわけじゃない。
 今も部屋に飾ってある。
 ただ、彼女はその事が許せなかったようだ。
 切っ掛けに過ぎないといってしまえばそれまでだが、積もり積もった不満が爆発したんだろう。
 お互いに。
 夢とも現実とも判断がつかないこの場所に投げ出され、何故だか俺はそれに気がついた。
 皮肉なものである。

 詮もない考えと、髪に付いた水滴を飛ばすように頭を振ると、俺は立ち上がった。
 ここがどこかは知らないが、喉を潤したことにより空腹感が押し寄せてきた。
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