チェリーガール
「あら、雪だわ」


お母さんは私の座るソファの横にある窓を見ながら小声で呟くように言った。


そうして、窓に近づく。


「見て。雪よ。雪が降ってるわ」


彼女が窓の外を指差す。


たしかに、しんしんと雪が降っていた。


「まあ、なんて幻想的なの。まるで、夢みたい。雪が積もるといいわね」


お母さんは雪が降って感動している。


ロマンチストなんだ。


「雪っていいわね。お母さん、雪が好きよ」


陶酔し切ったお母さんは、窓のそばを離れようとしない。


さっきから、お母さんが言う『雪』が『ｙｕｋｉ』に還元されて聞こえてくる。


それは、最も思い出したくない名前……。


ＥＲＥＮＡ以上に……。


私はずっとｙｕｋｉのことを頭の片隅に追いやってきた。


なるべく、彼女のことは考えないようにしてきた。


彼女のことを考えると辛いから……。


碧様の本命の彼女だよ？


彼女のことを考えると、胸が苦しくなる。


気が狂いそうになる。


碧様は、彼女とラブラブでいろいろＨなことをしたんだって思うと……。


泣けてくる。


胸が張り裂けそう。


だから、ｙｕｋｉのことは忘れようとしてたのに……。


それなのに……。


お母さんが『雪』って、６回も口にした。


言い過ぎ……。


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