粉雪の舞う夜
入口にそないつけてある子機を私がとると、まだ着ていたジャケットをグイグイと後ろから引っ張られた。


「……はい?」


私は子機に手を置いたまま首だけを動かして、引っ張る人を見る。


その瞬間、何ともいえない感覚になった。


直ぐ後ろに座っていた人を見下ろす。


真っ黒な少し癖のある黒髪で、大きな瞳が印象的な男の人。


カッコいいよりは、なんか可愛い感じの彼に見上げられたまま、私は固まったまま。


そのせいか、彼はさらにグイグイとジャケットを引っ張る。


「……あっ、はい!なんでしょう?」


何故か敬語になってしまう。


彼はジャケットから手を離すと、今度は人差し指を上に持ち上げて、クイクイと動かした。


つまりは、私を呼んでいるみたいだ。


歌のせいで、声が聞こえないからだろうと1人納得して、私は彼に近づき座っている彼の目線に合うように屈んだ。


「なんですか?」


と、再度たずねると彼は手の平を口に添えて、私の耳元に近づいてきた。


その途端、トクンっと胸がなった。


「……ホットコーヒー頼んでくれないかな?」


遠慮がちに言う彼に、私はコクンと頷く事でこたえる。
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